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東京高等裁判所 昭和37年(て)39号 判決 1963年1月23日

申立人 影山輝一

決  定

(申立人氏名略)

右の者に対する当裁判所昭和三二年(う)第二一四六号公文書偽造、偽造公文書行使、公正証書原本不実記載、同行使、公印偽造、関税法違反、公文書毀棄、窃盗、監禁、恐喝、暴行被告事件について、昭和三七年一一月五日当裁判所が言い渡した控訴棄却の判決に対し、右の者より上訴権回復の請求があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件上訴権回復の請求を棄却する。

理由

本件請求の要旨は、申立人は昭和三七年一一月五日東京高等裁判所において公文書偽造、偽造公文書行使、公正証書原本不実記載、同行使、公印偽造、関税法違反、公文書毀棄、窃盗、監禁、恐喝、暴行被告事件につき控訴棄却の判決言渡を受けたのであるが、同事件については申立人は昭和三六年一二月一八日に当時在監中の中野刑務所において「昭和三十六年十二月十八日午後一時の公判期日(判決宣告)を変更し、次回公判期日(判決宣告)は追つて指定する」旨の公判期日変更決定を受けたのみで、前記昭和三七年一一月五日の公判期日(判決宣告)については召喚状の送達を受けておらず、従つて右公判期日に判決が宣告されたことも知らず、宣告があつたことの通知も受けておらず、上訴提起期間経過後突如刑の執行を受けるに至つたものであつて自己の責に帰することができない事由によつて上訴の提起期間内に上訴することができなかつたものであるから上訴権の回復を求めるというのである。

よつて前記公文書偽造等被告事件の記録並びに申立人の疏明書類を調べてみると、申立人は、前記被告事件につき保釈中、昭和三六年八月二三日より、先に別件横領被告事件につき東京高等裁判所において言い渡された懲役一年六月(未決勾留日数二二六日法定通算)の刑の執行を受けていたものであつて、東京高等裁判所の前記公文書偽造等被告事件の第一回公判期日(昭和三六年一〇月一一日午前一〇時)の召喚状、第二回公判期日(同年一一月一五日午後一時)の召喚状及び「同年一二月一八日午後一時の公判期日(判決宣告)を変更し次回公判期日(判決宣告)は追つて指定する」旨の同年一二月一三日付公判期日変更決定謄本はいずれも、当時申立人が前記刑の執行を受けていた中野刑務所の所長に適法に送達されていたのであるが、その後昭和三七年一〇月一五日に至り申立人は既に同刑務所に在監していないことが判明したので裁判所書記官は、申立人に対する同年一一月五日午前一〇時の公判期日(判決宣告)の召喚状をその保釈許可決定に指定条件と定められていた制限住居である東京都板橋区上板橋四丁目四五番地に執行吏により送達を試みたところ、申立人が転居していてその転居先不明のため送達することができなかつたので、同年一〇月一九日午後五時右召喚状を前記制限住居に宛て書留郵便に付して発送した事実が認められる。してみると右発送の時において右召喚状は申立人に適法に送達されたものというべきであるから、東京高等裁判所が右一一月五日午前一〇時の公判期日に弁護人吉田閑の出頭した公判廷において申立人不出頭のまま申立人の控訴を棄却する旨の判決を言い渡した手続には何等違法の廉はなく、その言渡は申立人に対し効力を生じ、上訴の提起期間は右言渡の時から進行するものと解すべきであり、その期間内に上訴の申立をしなかつた以上、上訴権は右期間の経過と共に消滅したものといわなければならない。申立人がその主張するように前記昭和三七年一一月五日午前一〇時の公判期日(判決宣告)の召喚状の送達されたことを現実に知らなかつたとか、判決の宣告があつたことの通知を受けなかつたとしても、これをもつて申立人又は代人の責に帰することができない事由によつて上訴の提起間内に上訴をすることができなかつたものということができないものといわなければならない。よつて本件上訴権回復の請求を理由ないものと認め、主文のとおり決定する。

(裁判官 長谷川成二 白河六郎 小林信次)

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